「上腕三頭筋は手に持ったオモリを支えられるのか」を考える [その2. 問題]

9/12追記
 この稿の前に出版社に対してこの箇所について指摘を行っていたのですが、9/10に「図を訂正する」という連絡がありました。重版を重ねている本(著者が所持しているのは第8版)なので、第何版からの訂正になるのかわかりませんが、訂正後の版では今回の指摘にあたる内容は無くなっているはずです。
 また、この稿については、もともと指摘が目的ではなく、「理解や説明の上で間違いの起きやすい例」として取り上げておりますので、このまま残すこととします。
 悪しからずご了承ください

◇ 問題:適してないと思われる事例

 本にあった説明を、そのまま要約&再構成して記します。

 この説明以前に、筋肉とてこの説明が同じようにされた上で、以下の内容で説明されていました。

[本の説明(要約&再構成)]

 肘関節を例に、体の中にある「てこ」について。

 5kgのオモリを手に乗せて前腕を水平にした状態から、「持ち上げる」「下におろす」の動作をする時、それを行う筋肉が出すべき力を考えてみます。

<オモリを持ち上げる・上腕二頭筋の働きとてこ>※下図左を参照
 手に5kgのオモリを持地、肘をから先が水平の状態から持ち上げる場合。

肘から手までの長さを30cm、持ち上げる筋肉(上腕二頭筋)が前腕骨内側に付着してる箇所までの長さを3cmとします。つまりその比は「 10 : 1(30 : 3)」。

 オモリが下に落ちようとする力は「49 N(ニュートン)」
 これは、そのまま手がオモリを 支える のに必要な力。
 ですが、テコの作用によって筋肉に必要とされる力は10倍の「 490 N 」。
 つまり持ち上げるには、この490N以上の力が必要となります。
 しかし、距離の関係では、筋肉は1cm縮めばオモリはその10倍の10cmも持ち上げることができます。

[本の説明(要約&再構成)]

◆ 問題 <オモリを下におろす・上腕三頭筋> ※ 上図右を参照
 手に5kgのオモリを持ち、肘をから先が水平な状態から下におろす場合。

 オモリを持つ手から肘関節までは30cm 、肘関節から前腕骨の筋肉の付着部までは2cmとします。
(上腕三頭筋は、前腕骨が関節部を越えた箇所に付着します)
 その比は「 15 : 1( 30 : 2 )」となります。

 オモリが下に落ちようとする力は「49 N(ニュートン)」。
 ですが、テコの作用によって筋肉に必要とされる力は15倍の「 750 N 」。
 しかし、距離の関係では、筋肉は1cm縮めばオモリはその15倍の15cmも持ち上げることができます。

 肘関節での「オモリを持ち上げる時」「オモリを下げる時」という二通りの場合に筋肉が発する力がどれだけになるかについて述べています。

 前提として、肩の部位は何かによって固定されているとした方がより正確。

「持ち上げる時の例」は、体内に存在する「てこ」の紹介として適していると考えられます。
 他の関節に比べて、肘関節は筋肉の構成が単純でわかりやすいですしね。
 難があるとすれば、オモリの力よりも筋肉の発する力の方が大きくなることくらいでしょうか。

 ですが、「オモリを下げる時の例」は、本当にその通りでしょうか?
 本でも、上にまとめた程度の記載があるだけで、さらっと触れられていましたが、これは説明になっていないのではないかと考えました。

 


 

 もう少し詳しくそれぞれの動きについて考えてみます。

<上腕二頭筋(持ち上げる筋肉)の場合>

 図にするとこんな感じです。

 手に持った5kgのオモリの力=49N は、テコの原理によって筋肉の付着する部位では490Nの「下向きの力」となります。
 これと「つりあう力」は、490Nの「上向きの力」ですね。
 この「上向きの力」は筋肉が力を発する方向と合致しています。

 ですから、オモリを持ち上げるためには、上腕二頭筋は490N以上の力を発揮すれば良い、ということになります。

 

<上腕三頭筋(下げる筋肉)の場合>

 手に持った5kgのオモリの力=49Nは、筋肉の付着部位では「てこの作用」によって 735N となります。
 この力の方向は、支点を間に挟んだことによって「上向き」となります。

 この「上向きの 735N」につりあうためには、筋肉は「下向きに 735N」の力を発する必要があります。
 でも、筋肉(骨格筋)は基本的に「縮む方向」にしか力を出さないので、つりあう力は「出せない」ということになります。

 

 「つりあい」ではなく、オモリを下に動かす時はどうでしょうか。

 上にも書いたように、オモリの力は筋肉の付着部位では735N「上向き」に働きます。
 これは肘を伸ばす筋肉である上腕三頭筋の収縮方向(力を出す方向)と同じとなります。

 ですから、手に持ったオモリが下向きに動かす力全体では、「オモリの力」+「筋肉の収縮する力」。

 筋肉付着点(力点)でのオモリが下向きに動く力は735Nとなっていますので、筋肉はそれ以上の力が必要となった場合にのみ力を発することになります。

 ということで、「下に動かす」時に筋肉が発する力は、少なくとも「735N」ではない、ということになります。

 

 以上によって、「上腕三頭筋の解説」については、「つりあい」「下ろす(動かす)」の両方に関して不適である、と考えるわけです。

 「つりあう」「下ろす(動かす)」両方について述べたのは、元々の説明でそのどちらなのかが曖昧だったため。
 また、その二つのケースでは、上腕三頭筋の働きの理解が違うと考えたため。

 

 ちなみに、上腕三頭筋に735Nの力を発生させる仕組みについて考えてみたのですが、こんな感じでしょうか。

 なかなか大掛かりですね。

 

 次ページでは、こうしたことが起きる原因や、情報を受け取るときに何に注意したら良いのかについて考えてみます。

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