「上腕三頭筋は手に持ったオモリを支えられるのか」を考える [その1. 前提]

◆ 前提:「てこ」と「肘関節」のしくみ 

 今回の本題は、「てこ」と「肘関節とそれを動かす筋肉の出力」についてです。
 まず前提として、その二点について押さえておこうと思います。

 今回の書籍でも、当該箇所の前にこうした説明がありました。
 ここでは、僕なりの説明をしてみます。

 「その辺りは問題ないよ」って方は、次のページまで跳んでくださいね。

 

◆ 「てこ」について

 

 「てこ」は、大昔から小さな力で重いもの(大きな力)を動かすために使われてきました。
 その仕組みは現在に至るまで様々な機械などで当たり前に使われ、もちろん自転車でも機械式ブレーキ(レバーや本体)やクランクでチェーンを引く時にその作用を使われています。

 「てこ」では「支点」から「力点(力をかける点)」までの距離が長いほど、動かすための力は小さくなります。
 ただ、その距離が長くなるほど、「作用点」が同じだけ動かすにも「力点」が動く距離が大きくなります。

 

 「てこ」のそれぞれの点での「力」の大きさの関係は、まず「力のつりあい」で考えるとわかりやすいと思います。

 「つりあい」だけであれば、どちらが力点や作用点であるか関係ありませんけどね。
 今回は、てこの説明なので「つりあう二点」を「作用点」「力点」として図にしてます。

 「てこ」では、この「力点」の力が「つりあい」状態よりも大きな力になった時、「作用点」を動かすことができるということになります。

 

 「てこ」には、上のような「作用点」「力点」の間に「支点」があるものの他、それぞれの点の並びによって違いがあり、その中には「作用点」よりも大きな力が「力点」に必要になるものもあリます。

 

 上の4つの図の左側二つは『支点が中心にあるてこ』、右二つは『支点が端にあるてこ』です。

 左の『支点が中心にあるてこ』の二つは基本的には同じもの。
 違うのは「力点」「作用点」それぞれから支点までの距離だけです。
 この時の「力点」「作用点」は両方とも、力の向きは同じとなります。

 右の『支点が端にあるてこ』の二つは、「力点」「作用点」の位置関係が逆になった物です。
 どちらも「作用点」と「力点」の力の向きが逆になります。 

 どのケースであっても、力がつりあっている場合「力点」「作用点」の力は、『支点からの距離がある方が小さな力でつりあう』となります。

 また、この図の場合は「重力の存在」が暗に前提になっているのも重要なポイントです。

 


 

◆ 肘関節の動きと筋肉の力の方向

 肘関節が曲げ伸ばしをするときの仕組みは下図のようになっています。

 この図では、筋肉の働きを説明することが目的で「重力」の影響を考えていません。

 肘関節を動かす時、曲げる時には「上腕二頭筋」、伸ばす時には「上腕三頭筋」が主に働きます。

 「上腕二頭筋」は上を肩甲骨と肩関節、下を前腕の肘関節の内側に付着しています。
 「上腕三頭筋」は、上を肩甲骨と上腕骨、下を前腕骨が肘関節を越して突き出した所に付着しています。
※ 筋肉が骨に付着する間には「腱」の存在がありますが、今回は省きます。

 肘関節を動かす時は、
・肘関節を「支点」
・手を「作用点」
・筋肉の付着部を「力点」
 とした、「てこ」の仕組みで動いています。 

 ですから、筋肉の発生する力が手(作用点)に伝わる時も、「てこの原理」によって伝わるということになります。

 

 また、関節を動かす筋肉(骨格筋)は、基本的に「縮む方向」にだけ力を出します。

筋肉の「起始・停止」による収縮方向(筋肉の部分的収縮量の偏り)もあるが、今回は省く。

 「伸びる」ことはその筋肉自体の力ではできず、ただ「緩む」だけ。
 その緩んだ筋肉が伸びるのは、他の筋肉の働きによって関節が動き、それによって伸ばされるからです。
 伸ばされるのに抵抗することもできます(伸張性収縮)が、これも力の方向としては「縮む」方向として考えます。

 そのため、一つの筋肉だけでは関節を自在に動かすことができません。
 ですから、一つの関節に対して複数の筋肉が配置され、関節を動かす時にはその方向へ引っ張る筋肉(主働筋)が縮み、その逆側に動かす筋肉(拮抗筋)は緩んで主働筋の働きを邪魔しないようになっています。
※ その他にも協働筋という主働筋を補佐する筋肉もあるのですがが、今回は省きます。

 肘の曲げ伸ばしの場合には、主に二つの筋肉が働きます。
 そして、曲げる・伸ばすの動作の時にはそれぞれ以下のようになっています。

  • 曲げる時:上腕二頭筋→縮む 上腕三頭筋→緩む
  • 伸ばす時:上腕二頭筋→緩む 上腕三頭筋→縮む

 肘関節を動かす二つの筋肉はどちらも「肘関節(支点)」から「手(作用点)」までの距離が、「肘関節(支点)」から「筋肉接続部(力点)」の距離よりも大きいことから、てこの原理によって「手(作用点)の力」より「筋肉が出す力」の方がはるかに大きい力を発揮します。


 

 ここまでが今回の話をする上での前提知識。
 次ページでは、これらを前提に本の中で述べられていることの理解と検証をしていきます

 

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