テクニックを『考える』流れ-『カッティ』を例に (その4 了)
さらに確実に大きく後ろタイヤをズラすために、さらに考察と実験(実践)を進めます。
■ 動作の補正で考えたこと
あれこれ自分の動きをチェックした結果、気が付いたのは、以下の2点。
- 滑らない時は『腰も落としている』
ハンドルグリップを押す時に腰まで下に落ちてしまう←腰が落ちる力が発生(増加)し、後ろタイヤに伝わる - 自転車が前に逃げる
力が伝わった瞬間に前に走って(加速して)しまう。
上から押してるつもりでも、後ろから押してる?
一つ目の『腰が落ちる』は、最初に失敗した『後ろタイヤへの荷重を増やす動作』をしてしまっていたということ。
『ハンドルを下に押す』時に『アタマ』を落とすのと同時に『腰』も下に落ちてしまう。
つまり『身体全体が落ちる』状態になり、後ろタイヤへの荷重も増してしまうということです。
なので動作の改善策としてより意識的に『腰の高さをあまり変えないようにして、上半身だけ落とす』としてみました。
動作としては『足の付け根からお辞儀するみたいにして「頭」を内側グリップに落とす』感じです。
これならペダル上への荷重はほとんど変化しないまま、グリップへは上半身が落ちるという『動作の力』で瞬間的に押すことができるだろうと。
(正確には姿勢を変化させるのとその反動で多少は後ろタイヤへの荷重が変動します)
ちなみに、『その2』で考えてた、後ろタイヤから荷重を抜く動作(身体(特に腰)がハンドルの近くに移動させる)をすると、滑りにくくなることもこの辺りで発見。
これは、考えていたように後ろ車軸への荷重が減りすぎてその傾きによる押し出す力が減るからか、もしくは単純に『体勢的に曲がりにくいから』という理由かな、と推測しています。
● 『自転車を逃さない』について考えた
二つ目の『自転車が逃げる』は、解決するまでしばらくかかりました。
まず、上に挙げた『腰も一緒に落ちてしまう』ことで重心位置の前後移動が起きて進んでしまうだろうことが想像できました。
でも、その動作を修正してもまだ前タイヤが逃げてしまいます。
『逃げるんだったら逃げないようにすればいい』ってことなんですが、なかなかその方法が見つかりません。
ブレーキを使うわけではないですからね。
まず、アクションの初めに「ハンドルを急に曲げることでさらに抵抗を作ったらどうだろう」って考えました。
直進してる自転車で、急に前輪だけを90度近く曲げるとつんのめって転びそうになる現象の『軽め版』みたいなのをイメージした訳です。
ハンドルに身体(頭)を落とすための予備動作(一旦上にあがる)と同時に思い切りよくハンドルを切り、次いで内側に思い切って身体(頭)を落としさらに傾ける。
単純な発想でしたが、このイメージで、だいたいの路面、だいたいの自転車でカッティを成功させることができるようになりました。
でも、これはできるようにはなったものの、考え方としては間違ってたらしいとあとで考えるようになります。
■ 後になって「勘違い」だったと考えたこと
できるようになってよかったよかったと思ってたのですが、失敗した時につんのめって転んでしまうようなこともあって、どうも最初に知った『コーナーリングの基礎』としては違和感を感じます。
一応できるようにはなってるのだから、大きく間違ってはいないのだろうけど、考えた中でまだ何かが足りてないかどこかが間違ってるので再現性が低いのでは?と考えます。
そこでもう一度『走行中の自転車の傾きとハンドルの角度の変化』について見直してみました。
前にも出てきたこれですね ↓
また、前に触れたように、一定以上倒すとハンドル切れ角が小さくなることで内輪差も小さくなってコーナーリング半径が大きく(まっすぐに近く)なることについて、改めて考え直してみます。
下:カッティによって変わるコーナーリングの軌道
そして『アクションを開始後、無意識に「コーナーリング」をやめている』といるのかも?と考えました。
『後ろをズラす』ことを意識するあまりコーナーリングであることを忘れ、無意識に「内輪差の解消によるコーナーリング半径が大きくなる力(結果的にハンドルを戻そうとする)」に負けているのでは? と推測したわけです。
対策として、アクションを始めた後も『前タイヤの最初の軌道(上の図での青点線)を変えない(もしくはさらに内側に向ける)ようにする』と意識して動いてみようと考えました。
抵抗を生むために『動作と同時にハンドルを内側に向ける』ことで成功率が上がったのも、考えた理屈は違っていても結果的に似たような動きになっていたためと考えました。
(両方とも、動作開始からさらにハンドルを内側に入れ込むような動きになる)
また、動作の改善点としては(自転車にもよりますが)内側のグリップを下に押すだけではなく、同時に押した『ハンドルグリップ』を支点にして身体を回し続けるようにすれば、さらにコーナーリングを深くできるのではと考えました。
さらに、より内側に向ける要素を増やすために、予備動作で一旦ハンドルを戻したあと、内側に一気に曲がり込むようにします。
(『勘違い』とした動作とほぼ同じ。ただそこに前タイヤに抵抗を生む/生まないの違い)
これらの動作を強く意識するようにすると、かなり高い角度で後ろタイヤがズレるようになり、またそのコントロールもできるようになりました。
(あとになって、自転車によっては『後ろタイヤの接地点を内側からハンドルグリップエンドで押し出す』ように意識すると成功率が高くなるいうことも発見。自転車によって使い分けています)
■ 動作だけを簡単にまとめると
できるようになってから10年くらいたった現在でも、基本的にはここまで考えたことの上に立って『カッティ』をしています。
こうしてできた『カッティの動作』を簡単に言葉にすると
- 両方のペダルにしっかり立ち、足の付け根で体を折るようにしてアタマを前に出しハンドルの上に置く
手は、「頭の重さを支えるように」ハンドルグリップに上から置く - 大きくゆるいコーナーリングからはじめる
ハンドルと上半身は常に同じ方向を向くようにする - 内側のハンドルグリップにアタマを落とすようにして下向きに押す
同時に、前輪がさらに内側に向かうように曲げ続ける、またはさらに内側に曲げる
(腰が落ちたり上がったりしないようにする)
と、たった3点でまとまってしまいます。
個人的にはまだ課題があって、『左曲がり』は問題なくできるのですが、『右曲がり』では失敗することも多いんです。
おそらくペダルスタンス(どっちのペダルが前か)によって、身体のひねりやすさの違いや、利き手などによる違いなどがあると考えてはいますが、それは『身体のくせ』の話になるのであんまり解消したい欲求が湧かない。
また、これを多くの人にも再現可能なようにその『練習方法』や『ハウツー動画』を作成するという段階に進むには、さらに『動作感覚を言葉に置き換える』『効果的なアプローチドリルを考える』という作業を進める必要があり、これがなかなか進みません。。。
実際にマンツーマンで伝えるのであれば、実演を交えてアドバイスを送ることもできるのですけどね。
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さて、気をつけなくてはならないのは、ここに書いたことは『正解ではない可能性も存在する』ということです。
もちろん僕は、至らない点はあっても間違っていないと考えて書いていますけどね。
それでも僕が身につけるまでの経緯の中でもあったように『理論的には間違っていても成功してしまう』ということはよくあることで、現時点で僕が成功するからといってそれが正しい理屈ではない可能性を忘れないようにしています。
何しろ「実証」が『僕がやってみること・僕が成功するかどうか』なので、無意識にいくつものフィルターがかかっていることもあり得るわけです。
実際、僕は『車輪を倒すと後輪を押し出される』にこだわって考えていますし、それは要因としてあるにしてもさらにもっと大きな決定的な要因があるのかもしれません。
一つ一つの事象やそれについての考え方・理解を、自分だけではなく多くの人が確認し理解をし考えていくことで、より正確な、または新たな切り口での理解が生まれていくのが科学の本質だと考えています。
僕自身も自らのフィルターの存在を疑いながら、自分に対して疑問をぶつけてみたり反論をしてみたりして現在の自分に『見えていないこと』をあぶり出すのは楽しみの一つなのです。
この稿を読んでる間にも「ここおかしいんじゃないか?」って思われた方もいるかもしれません。
ですが、そこでもう一度、自分の持った疑問についても、「自分のその疑問はどういうことなのか」を考えてみることでより理解を深めていくことに繋がると思います。
そうしてそれぞれが理解したものをまた共有すれば、一つ一つの現象・テクニックの理解がより確かなものとなり、より確実な上達や指導に活かされるようになるのではないかな、と思い、そしてそうなることを願っています。
(了)