下り坂と車輪と静止
下り坂に向けて置いた自転車は勝手に走り出そうとします。
山道の場合、下り坂に向けた自転車にまたがった瞬間に自転車が滑り出して転んだ、なんて経験をした事はないでしょうか。
今回はなぜ滑り出すのかについて考えてみます。
■ 重力に引かれる車輪
まずは車輪だけで考えます。
車輪を立てて、坂道の真下に向けて置いた場合を想定してください。
念を押しますが、静止した状態ですよ。例えば、水平な地面にタイヤを置いた場合、車輪の重さは地面が支えてくれます。
これが坂道になるとどうなるかと言えばこういうことですね。
「重さ」という力は重心の真下に向かいます。
ところが坂道では重心の真下にそれを支える地面がありません。
車輪と地面の接点は、重心の真下からズレてるからです。
坂に置かれ、重心と接地点のズレた車輪は、重心の真下の空間=「高さ」が「0」になるように下へ移動しようとします。
ですが、車輪の一点は「坂」に接していますから真下へは移動できません。車輪は「坂」に沿って移動します。
つまり、斜面に置かれた車輪はそれだけで「坂を下ろうとする力」を持っているということです。
■ 坂道の車輪
車輪に限らず「円」又は「球」形のものは、それ自体が「転がる」ことにより、接地面の摩擦力の影響を、他の形態のものよりも小さくする事が出来ます。(広い平面で接地する物体の場合、その摩擦力が下に向かう力を超えると止まる)
ですが、自転車の車輪の場合「転がる」為に必要なエネルギー(ベアリング部の回転抵抗や、車輪やタイヤの変形、そしてブレーキングなど)が接地点の摩擦抵抗を超えると、今度は接地面の摩擦力とこの位置エネルギーとの関連性により、摩擦力が勝れば静止し、摩擦力が負ければ滑りはじめるということになります。
走行中の自転車に関しては、この他に「人間+自転車」が持つ慣性(勢い)があるので考える事がもうちょっと増えます。こちらに関してはまた別項で考えてみようと思います。
■ まとめ
このように斜面に置かれた車輪は、重力に引かれて真下へ移動しようとしますが、斜面が「邪魔」する為に、斜面に沿うように動こうとするということです。
冒頭に書いたようなことは、それまで摩擦力によってかろうじて静止していた自転車に人間の体重が加わったので、接地点の摩擦力を越えて滑り出した。ということです。
また、「坂を下ろうとする力」を持つ車輪で支えられている自転車は、そもそも不整地の下り坂で「静止」していることが難しいのだと考えられます。
静止する為には、タイヤの回転を止め、尚且つ地面との摩擦力を越えないようにする必要があります。
そして、不整地の地面が持つ摩擦力はとても小さく滑り出しやすい。
ただし、ゆっくりでも動いていれば、「下に向かおうとする力」を消費するので、摩擦力を下回る事が出来ます。
滑り出した車輪はコントロールするのが難しくなります(←これも別項で触れます)から、ゆっくりとでも進んでいる方が安心して下りを走れますよ。
念を押しますが、これは静止した状態での考え方です。
既に坂を転がっている車輪の場合、「移動する車輪自身」がもつ「慣性」や他の要素が加わり少し状況は変わります。
また自転車に取り付けた場合や走行中ははいろいろな要素が増える為、この事だけで全てが考えられる訳ではありません。
ただしこの力が消える訳ではありません。
ですから、この「坂を下ろうとする力」の存在を要素のひとつとして覚えておくと、いろいろ考えるのに面白いですよ。