動画:『ジャックナイフからポトンと落とす』段差降り(2022.7.19 記)

 こちらの動画はほんと地味。

 前回の動画で、後ろタイヤを壁面走らせながら降りたので、前タイヤを走らせながら降りるテクニックって何かあったかな?と考えたけど思いついたのがこれだった。

 

 段差に向かってジャックナイフし、良い感じにブレーキを “緩めて” 段差を降ります。
 ”緩めて” を強調したのは、ブレーキを完全に離してしまうと難しいから。
 最後のノーズウィリーはおまけです。

 動画をよく見てもらうと、前タイヤは壁面を転がっておらず、滑りながら降りています。(実際には滑らせる必要はなく、ブレーキがある程度効いていいればOK。)
 ここでブレーキなしでタイヤを転がしてしまうと、落下速度も速くなり、ジャックナイフであげた後ろタイヤの高さもキープしにくくなります。 

 このテクニックの使いどころは「トライアル競技などで段差の下に前タイヤだけを落としすぐ止まらなければならない場所」。
 なおかつ、段差の上が平坦ではなく跳び岩みたいになっている時などです。

 超限定的ですね 笑

 このような時、ホッピングで前タイヤを下ろすよりも、ジャックナイフから落とした時の方が着地で安定して止まりやすいと利点があります。

 まあそんなに競技中に使ったことないですけどね。
 でも他の選手がやってるのも見たことあるので、まあポピュラーなのだと思います。

 

 この動きが可能なのは、前タイヤをロックして後ろタイヤをあげた時に、その車軸位置が前に進むからです。

 ジャックナイフをすると、前タイヤは接地点を前に移動していくので車軸が段差のカドより前に出ますよね。
 そこからブレーキを緩めればタイヤは壁面に沿って下りてくれます。

 また、ジャックナイフによって身体も前に移動するので、ブレーキを緩めた後は前に出るよりも下に落ちるような力の方が大きくなり、着地後に前に進みにくくなる=止まりやすいということになります。

 ただ、これができる高さには限界があって、僕の場合落差60cmまではやったことがあるけど落ち着いてできるのは50cmくらいまでじゃないかな、と。
(※ 自転車や車輪径、手足の長さによって変動します)

 今回は、この「どうしてこの降り方だとホップで前を下ろすよりも着地の衝撃が緩和されるのか」について書いていこいうと思います。
 まあ、テクニック自体はほとんどの人に無用なものですが、力の動きを分解して考えるときの参考にでもしてもらえたら幸いです。

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■ 着地が安定する理由

 上で書いたように、ただ下ろすよりも着地後安定するこのテクニック。
 その理由はいくつかあります。

・下りる時の角度変化(回転)が少ない

 まず「前タイヤが降り始めてからの角度変化が少ない」と言うことがあります。

 普通にこのくらいの段差を降りる時には、前タイヤからそろりそろりと下ろします。

 こんな感じ↓

 この時、自転車の角度は「水平」から「前下がり」に変化しますよね。
 つまり自転車が前に進みながら「回転する力を持つ」ということです。
(身体は最初に低くすることで回転する力を生じにくくなっています。もし身体も一緒に回転すると着地時の不安定さが大きくなります)

 回転する力を持った物体(この場合は自転車)の一端(この場合は前タイヤ)に力を加えて回転を止めると、今度はその止めた点を新たな回転軸(中心)として回転する力が生じます。

 そーっと下ろす時には大した力にはなりませんが、勢いよくホップから下ろす時にはこの力は大きなものになり、ときどき着地と同時に後ろタイヤが浮くような力が発生し不安定になるわけです。
(トライアル競技経験者なら実際に浮いてしまった経験があるはず)

 

 動画のような「ジャックナイフから落とす」場合では、下りている間の自転車の角度変化量がかなり小さくなります。

 最初にジャックナイフにて「角度の変化」をあらかた済ませてしまえるので、下りる間の角度変化が小さくなるということです。
 「ジャックナイフ=角度変化」→「落下=高さの消費」と分離させて行う感じですね。

 このため、着地後に自転車が回転しようとする力を小さくすることができ、結果、着地が安定しますよ、ということです。

 

・水平(前方への)移動距離が小さい

 前から下ろす時には、前タイヤが角を超えて進む際に水平(前方)への移動が生じます。

 この移動によって身体も前方への移動し、その移動によって前方向への勢いが発生します。
 この力を前タイヤの着地によって止めると「つんのめる」ような状態になり、バランスを崩しやすくなります。
 ホッピングの場合はさらに飛んだ勢い(速さ)が加わり、その力は大きいので尚更それが強くなりますね。
 

 ジャックナイフから落とす場合では、後ろタイヤをあげた時点で身体も前に移動をするので、下りる時の水平方向の移動も小さくなります。

 この状態から下に降り、前後のタイヤが同時に着地した場合、落下の「下向きの力」はしっかり地面で受け止められるので回転するようなこともありません。

 ですから、着地した時につんのめり感もなく、落ち着いて止まることができるということになります。

 

・着地が楽になる理由:腕と脚の力の違い

 普通に前から段差を降りる時には、身体を低くしてから前タイヤから下ろすようにします。

再掲
前タイヤから下ろす例

 姿勢を低くするのは、前タイヤが下りていくのに合わせて腕を伸ばす余裕ができ、自転車の落ちる勢いに身体が引っ張られないようにできるから。
 そして重たい「身体」が落ちる距離(落差)を小さくすることで着地の衝撃(落ちる力)を小さくできるからですね。

 今回の動画程度の高さでは、そっと下ろせば着地の衝撃はあまり大きくありません。
 時間にも余裕があるのでその着地に備えることができます。

 ですから、腕の力(支え)だけでも姿勢を崩さずに済むわけです。

 

 ですが、段差の上からホッピングで前タイヤを下ろすと、勢いが増すので着地の力は大きくなりそれを腕の力で支えることが難しくなります。

 跳んだ後、前部を下げながら着地する時には、腕が伸びながら着地の力を受けることになります。

 筋肉は動作の最中にその動きの逆の力を受けると、反射的に筋肉を固めて受け止めるように働きます。
(また、それがとても大きな力の場合には身体を守るために筋肉が弛緩するようになっています。切れちゃいますからね)

 ですから、前タイヤを下ろす動きの中でその反対の力=着地の衝撃が加わると筋肉を固めて耐えるようになり、腕を柔らかく使って着地の力を緩和(経時的に漸減)させることが難しくなります。

 そもそも腕の筋肉は細く、身体全体の落下を受け止めるには向いていませんしね。

 そうすると、腕による衝撃の緩和は難しく着地の力はそのまま身体に伝わり姿勢を崩しやすくなってしまいます。

 時折、段差を降りる動作を説明する時に「前タイヤを段差の下に向けて押し出す」という説明がされることがありますが、実際の力と筋肉の働きから考えると不安定になる要素を増やしてしていることになります。

 

 動画の「ジャックナイフで下ろす」場合では、下に着地したときの角度は前下がりですが、着地時の衝撃を受け止めるのに「脚の筋力」を利用できます。
 脚の筋肉は腕の筋肉よりもかなり太く、またその力も大きいのでこの程度の落下の力はきちんと受け止められます。

 また、ジャックナイフから下ろす場合では、後ろタイヤが上がった時点で脚が伸びているので、着地後に脚を動かしながら力を吸収することが容易です。
 また、落下前に着地するための姿勢が整っているので、降りていく間にその準備ができることも大きいですね。

ですから、この場合に使用する「ジャックナイフ」は、前タイヤの上の高い位置に身体を置くこの動画のジャックナイフである必要があります。
参考:YouTube『【 How to 】ジャックナイフをもう一度

 ジャックナイフ時には身体の位置が高く(=位置エネルギーが大きく)はなるのですが、高くなってもせいぜい40~50cmですから、脚の力と腕の力の差を考えれば問題になりません。自転車なしでそのくらいの高さから降りても問題ないですよね。

 ただのホッピングでも、腕や脚の力を使って自転車を持ち上げるように跳ぶと、着地の体勢が間に合わずに着地の衝撃が大きくなることがあります。それを避けられるということです。

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・おわりに

 以上のような理由で『ジャックナイフからポトリと落とす』では、前跳びなどから前タイヤを下ろす場合よりも着地で安定(特に静止する場合)することができると考えています。

 平地から急な斜面に入る時などは、ジャックナイフこそしませんが、一旦上に飛び上がって斜面の斜度に合わせて着地するなんて動作をしますね。
 着地面こそ水平と斜面で違いますが、それも着地時点でどのような力が働くか(返ってくるか)などを考えに入れているというところでは同じです。

 自転車のテクニックには、様々な要素が絡んでいますが、力の向きや身体の作りなどに分解してそれぞれについて考えていくことで理解がしやすくなりますね。

 自分にはとてもできないなぁと思うようなアクションも、そうして考えることでその中の一要素だけを取り出してやってみたり、似たようなアクションを考えてやってみたりしてるうちにできるようになることもあったりしますよ(経験談)

 長くなりましたのでこのあたりで。

 それでは、また。