動画:”段差を下る(くだる)〜”の前半解説の補足[段差を下る時の前輪と後輪の違い]

“段差を下る(くだる)時はアタマを下げる”動画の前半部分の補足です。

先に断っておきますが、僕が指導する際にはこういう理屈は抜きにして身体動作部分だけの説明をするようにしています。
こんなこと口頭で説明されてもわかりにくいし。。。求められたら説明を試みますけどね。
こういう考えが裏付けとして持っていますよ、って感じで捉えていただければ。

前半はこちら ↓

動画:”段差を下る(くだる)時にはアタマを下げる”の解説・前半部分

本当は、後半部分の『連続する段差』について書こうと思ってたんだけど、書いているうちに前提として知ってほしいことがたくさんあってさらに分けることにしました。

特に、前輪と後輪が段差の角を通過する時にどんな現象が発生するのかについての考えを書いています。
最後に、単純な段差を下る時に頭を下げる理由についての補足を入れてみました。

この次に準備している後半部分はこの稿を読まなくてもわかるように書こうと思っています。
ですがご興味ある方はどうぞどうぞ。

一応要所要所に動画のリンクは貼ってますが、ここでも見られるように動画直接貼っておきますね。

 

■ 前輪が段差を落下する時に発生する『後ろ向きの(戻る)力』

 

タイヤ単体で段差に向かって勢いよく転がすと、こんな感じの軌跡になるはずです。

これは、重力の引く速さよりも水平移動の方が速い場合の図。
重力の引く速さより水平方向の速さが遅い場合には、前半の説明(前半のブログ)に説明したカドを通過する時の加速なども考慮に入れることが必要です。

ですが、動画の前半のシンプルな段差下りの『ノーブレーキ』をよく見ると、前輪は壁面にくっつくように走っています。
一方、後輪は壁面に沿うことなく途中から段差を離れていきます。

動画:前半のシンプルな段差下り『ノーブレーキ』部分
(スロー作っておけばよかったですね。。。)

自転車には前後にタイヤが2つあり、それぞれが地面に接しその重量を支えています。
(正確には重量を両車輪軸で受けてタイヤの接地点に伝えています[ノーブレーキ時])
これが1つのタイヤを転がすだけの時とは違う現象が起きる原因です。

その2つのタイヤのうち前輪が段差を降りるときには、前輪に後輪軸を中心とした『後ろ向きの力』が発生するために壁面を走るのだと考えています。

図にするとこんな感じ

ざっくりと自転車を鉄アレイに例えてみました。(鉄アレイに意味はありません。わかりやすいかな、と。)
後輪だけが段差に乗った状態で、車輪の回転に抵抗がない場合、後輪ハブ軸を中心に前輪が落ちていくことになります。
正確には、落下運動を含んでいるので前輪の移動距離が長く(時間が長く)なるほど強くなります。
ちなみにブレーキしている時にはこの回転運動の中心(支点)位置は移動すると考えられますが、それはまた次のお話で。

これの注目ポイントは、

  • 落ちていく(角度が深くなる)ほど『戻る力』は大きくなっていくということ
  • 実際にはこの現象は自転車(支点)が進みながら発生しているということ

自転車(自転車+ライダー)の『進む力(速さ)』が『前輪の戻る力(速さ・水平方向)』を上回ると、前輪は壁面を離れていくようになります。

反対に、ブレーキなどによって『進む力』を弱めてしまうと、前輪の『戻る力』が優位になり、前輪が壁面に押し付けられるように走るようになると考えられます。ゆっくり走る時にはこの力を利用します。

また、前輪と一緒にライダーの重さが落ちていくようなことがあれば、その力は当然この『戻る力』に加算されます。
このライダーが一緒に落ちるとは、ライダーの重さが前輪の落下に加算されるのは、自転車に『引っ張られる』ように感じる状態もその1つです。
これが自転車の変化にライダーが『引っ張られない』ようにする=先に頭を下げておき前輪だけ下ろすようにする理由の1つです。
(自転車に比べてライダーの方が圧倒的に重いので、回転運動が強くなる→前転しやすくなる)

応用?として、段差の上面が段差に向かって下っている場合には自転車の『進む力』は下り坂によって強く(速く)なり、前輪の戻る力(速さ)を上回りやすいため、ドロップオフジャンプなどは飛び出し面が水平よりも下り坂であれば安全になる(ひっくり返りにくくなる)と考えられます。

これらは『勢いをつけて下る』時に安定する要因なので覚えておきます。

「前回の解説では加速するって言ったじゃないか!」と言う声が聞こえてきそうです(笑)
この現象も当然起きていて、前回説明したように、前輪の中心が段差のカドを超えたときにはタイヤの半径分加速します。

つまり、前輪軸が段差のカドを過ぎた瞬間から『タイヤ半径分の加速』と同時に『後輪中心を軸にした前輪が戻る力』も存在し、それぞれの時点での力の合力によってどう動くのかが決まります。

『進む力』がゆっくりの場合では、カドを通過し始めた時には前半の『落下による半径分の加速』が大きく『戻る力』は角度的にまだあまり大きくありません。
ですが、前輪軸が段差の高さより低くなる(『タイヤ半径分の加速』が終わる)瞬間からは『戻る力』のみとなり、自転車の角度も大きくなるので『戻る力』も大きくなります。
(ライダー目線としては、これらの力と同時に自転車の角度の変化によってハンドルがライダーから遠くなったりなどのことが一気に起きるので正直全部を考えながら動くのは難しいですね。そういうことがあると思ってるだけで良いのではと思います)

他にもいくつかの力の発生はあるのですが、ここでは影響が小さいので触れません。

さて、この前輪の『戻る力』は、前輪が段差の下に着地した時点で終わります。

前輪は着地した時点で、進んできた力のままにその路面の角度に沿って転がるためです。

この時、ブレーキをかけなければ(抵抗がなければ)自転車の角度はその進む力に対してはあまり関係がありません。

 

■ 後輪が壁面から離れる理由

 

繰り返しになりますが、タイヤ単体で段差に向かって勢いよく転がした時の軌跡です。

これも繰り返しですが、これ↑は重力の引く速さよりも水平移動の方が速い場合です。

前輪の落下のときには『戻る力』が発生するということは上で説明しました。
では、後輪が通過する時にはどうして途中からタイヤは段差から離れるのかを考えていきます。

ゆっくりのスピードから後輪が段差を通過する時の図はこんな感じ。

後輪が落ちる時、前輪に何ら抵抗(ブレーキかけるなど)がない場合は前輪が前に進みます。

『重力の引っ張る速度』より進む速度が遅い場合、後輪がカドを落ちる『タイヤ半径分の加速』が発生し、特に抵抗もないのでそのまま『自転車を進める力』になります。
この『自転車を進める力』によって進行速度(水平)が増し、段差角を中心とした弧を描く後輪軸の軌道の水平移動分を超えた時点でカドから離れていきます。

後輪が落ちる時にはライダーも一緒に落ちる(位置エネルギーの消費)のでその力はとても強く、動画でブレーキをかけてゆっくり下る部分を見ても壁から離れているのがわかります。

もう一度動画で確認→動画:前半のシンプルな段差下りの部分

と、ここまでが後輪が落ちる時の現象の解説。
前輪に比べるとだいぶシンプルですね(笑)

■ 腰を引くことを意識しすぎると不安定になる理由

 

この『後輪が落下しながら加速(前進)する』時、腰を大きく後ろに引く意識を強く持ったままでいると、後輪着地時に自転車から身体が遅れてしまいます。

前輪が下がった体勢のまま後輪を落としてしまうと、ハンドルと頭が(水平距離で)離れてしまうのがわかります。
また、後輪により多くのライダー重量が加わるので、『自転車を進める力』も大きくなります。
つまり、後輪が着地した時点で身体は遅れるし自転車は前に進んで行ってしまうしで、あまりいいことがありません。
この状態が連続する段差で発生した場合、次の段差に対応(前輪が落ちる前にハンドル近くに頭を下げておく)ができなくてまた身体が遅れ〜という負の連鎖に。

また、着地した後輪の上に体の重たい部分が位置することになるので、落下の衝撃も大きくなります。
ついでに、体を支えるペダル(ボトムブラケット)の上に立っていることもできないので、体の揺らされ方も大きくなります。

 

■ ハンドルを頭の下に置くことで良いことと注意すること

 

『後輪が落ちる時に身体が遅れる』を防止するためにも『ハンドルと頭の位置関係=ハンドルの上に頭を置く』を意識することは役に立ちます。

ハンドルに頭を置いておくということは、常に頭の下にハンドルがあるということです。
僕はこれを『ハンドルを自分の下に置く』『自分の支配下に置く』なんていう表現したりします。

グリップに上から手を置き、手のひらに自分の頭の重さを感じているような状態です。

この状態を維持できている=身体が自転車と一緒に進んでいるということです。
自転車の角度が変わっても、この位置関係を維持できていればハンドルのコントロールがしやすいですしね。
反対に、自転車が急に失速するようなことがあっても、ハンドルと頭の前後の位置関係が崩れなければ前に吹っ飛ぶなんてことは起きにくくなると考えます。

ただ、『ハンドルの上に頭のある状態』にあるためには、その状態にあるために一旦はその位置から外す場合も必要になります。
前回の投稿で書いた『前輪が段差を通過する時に上から覗き込む』と言ったような場合です。
この時には『前輪が重力に引かれる加速』と自転車の角度変化によってハンドルだけが進んでしまう現象に対応するために、現象が納まった時点での頭の位置にできるだけ近いところにあらかじめ移動させておくのが狙いです。
結果、前輪が段差の下に降りた時には安定した状態になるということになります。

また、地形やタイミングなどから、どうしても頭とハンドルの位置がずれることはあります。
いつでもそこにいるのが正しいというわけではなく『原則として』ということで覚えておいてください。

また、『頭を下げる』と言った場合に、低くしたままガチガチに固まらないように注意です。
その状態では、自転車の角度変化に身体が付き合ってしまうことになり、前後それぞれのタイヤへかかる力が大きくなってしまいます。

ちなみに、下る時に「腰を引かなくていいのか?」という疑問をいただくことがあるのですが、頭をハンドルの上に下げることができれば、腰は自然と後ろへ位置することになります。

頭が下がらない人(または腰が後ろへ移動しない人)は、おそらくおへそあたりを曲げて頭を下げようとしているのではないのかな、と思います。
足の付け根から身体を折るように普段から癖付けておくと良いかなぁと思います。

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以上、今回はここまでで。

この解説を書いているうちに、「おお!これはこことつながるな!」みたいなことが何度もあり知的興奮を堪能してしまいました(笑)
考えていることを人に説明する目的で文章に起こすというのは、自分のためにもなるなぁと再確認した次第。

動画の後半『連続する段差を下る解説』については改めて書きます。
(現時点での書き溜めはほとんどありません・・・)
ちょっとまた時間がかかるかもしれませんが、ご容赦ください。

ではでは。